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2013/07/21

全日本プロレス王道史(#15)

録画した日〔2013/3/30:サムライTV〕

昭和56年12月13日に蔵前国技館で行われた「'81世界最強タッグ決定リーグ戦」の優勝戦。
ザ・ファンクス(11点)を1点差で追い掛けていたブロディ&スヌーカ組が、逆転で初出場初優勝を飾りました。
必殺のキングコングニードロップでドリーを粉砕し激勝の雄叫びを上げる超獣ブロディ。
全日マットを震撼させた「ブロディ革命」は、この日突如登場した”ウエスタンハットをかぶった大型の男”と共に怒涛の第2章へ突入することとなります。
昭和プロレス史に残る大事件&名ゼリフ&名シーンが続発した12.13蔵前優勝戦。
言うまでもなくそのクライマックスは”ウエスタンハットをかぶった大型の男”が衝撃の乱入を果たしたブロディ&スヌーカの入場シーンです。
大ボラ倉持アナ
「ブルーザーブロディと、それから、ジミースヌーカが、今、やってきますが…」
「おっと、その後ろに、これは、誰でしょうか?」
「ウエスタンハットをかぶっております。ウエスタンハットをかぶった大型の男」
「何やら、どういう選手か…」
大ボラ倉持アナ&東スポ山田さん
「あっ!」
大ボラ倉持アナ
「スタンハンセンだ!スタンハンセンがセコンドですねえ!?」
東スポ山田さん
「ハンセンですよ!!」
大ボラ倉持アナ
「スタンハンセンがセコンド、これは大ハプニングが起こりました、蔵前国技館!」
大ボラ倉持アナ
「山田さん、スタンハンセンとブルーザーブロディはアメリカでは非常に仲が良いんですよねぇ」
東スポ山田さん
「そうなんですよね、かつてね、タッグチームでタイトル持ってましたからね」
「だけどこれはエライ事になりましたねぇ」
大ボラ倉持アナ
「エライ事になりましたねぇ!」
ネタバレ情報源などあるべくもない当時小学3年生の私にとっては、文字どおり「ハンセンですよ!」の超特大サプライズ。
土曜の夕方、あまりの衝撃で何もしゃべれなくなった事を覚えています。
ハンセン=新日(猪木)という固定観念の崩壊、そしてブロディ+ハンセンという途方もないドリームコンビの誕生。
この両事実を一気に突き付けられたんじゃ「エライ事」どころの話じゃぁない、ちびっ子ファンのみならず全国プロレスファンの思考回路がオーバーヒートする史上空前驚天動地の”政変”だったと言えるでしょう。
スヌーカだけでも十二分に強力なのに、親友・ハンセンをも従えてイケイケの超獣ブロディ。
「これ、後で使いますよ」と言わんばかりのヤッツケ仕様サポーターを左腕に巻き、テキサスの大先輩・ファンクスをじわりじわりと追い込んでいきます。
熱狂的ファンクスファンも含めたお客さんの関心は「ハンセンがいつ抜くか?」の一点。
そしてその瞬間が訪れたのは試合終盤の15分過ぎ。サポーターを譲り受けたハンセンの無法ラリアットを食らったのは、全国プロレスファンの想像どおり世界最高峰のヤラれっぷりを誇るテキサスブロンコ・テリーファンクです。
ハンセンの自伝などでも広く語られているように、この電撃移籍&衝撃マッチメイクの舵取りをしたのは他ならぬ荒馬兄弟・ファンクスでした。
蔵前決戦前日には、馬場さんやブロディを交えての「密談」も行われていたとの事です。
リング上の激しい闘いだけでなく、フィクサーとしての辣腕ぶりでも日本マット界に殿堂級の貢献をしてくれたビッグテキサン。
我々プロレスファンはあらためて最敬礼をすべきでしょう。

かなりの理不尽決着ではあるものの、心の準備もあってか妙に納得感もある優勝戦。
超大物ハンセンの顔見せが「途中乱入」の形式だったらこうはいかなかったのかも知れません。
そして驚くべきは試合後の超展開。お約束の大乱闘を経て、まさかの番外編「馬場さん劇場」が始まります。
先に仕掛けたのは無法野獣トリオ。
馬場さんの脳天チョップを数十発食らって大流血のハンセンを核に、蔵前の支度部屋で大暴れを敢行します。
なお、この番外パートは大相撲ファンにとってもお宝モノか。
蔵前特有の狭くてゴチャゴチャの支度部屋周りから、お相撲さんがつかる湯船までハンセン達は隈なくバイオレンス行脚を繰り広げてくれました。
ブロディ、ハンセン、スヌーカの乱入でシッチャカメッチャカにされた正規軍支度部屋。
画面左の三沢光晴ら忠実な若手連中が一生懸命後片付けをします。
そんな戦時下とも言える壮絶な状況に、大将・馬場さんは「ふざけんじゃないっちゅんだよ」とカメラの前で怒りの咆哮をブチ上げました。
何とも珍しい馬場さんのジャイアント独演会。
「人の家に入ってきてだな、テリーに手ぇ出したりなんかされたんじゃこっちもタマったもんじゃないよ。そうでしょ?」
「来るなら堂々と来てもらわないと」
などなど、怒りのベクトルをハンセンに向け、ツッコミどころ無限大のプロレストークを展開します。
セミではインドの狂虎・シンに土俵の砂を顔面に擦り込まれるなど、踏んだり蹴ったりだったこの日の馬場さん。
その舌鋒は止まらず「人の家、土足で入ってくるような事されたら困るっちゅんだ」とプロレス史に残る名ゼリフ”土足発言”を投下。
更には土俵方向を指して「あのリングならいつでもやるよ、って言っといて」と三顧の礼で迎えたハンセンに最上級のエールを送りました。
ひとしきり言いたいこと言っていつもの温厚ジェントルマン風情に戻った馬場さん。
かつて同じ釜の飯を食ったI選手のようにインタビュアーにビンタする破廉恥行為などもなく「ちょっと表彰式行ってくるわ…」と支度部屋を後にしました。
馬場さんが向かったのは、お抱えのマスコミ連中やらタニマチやらが待つ表彰式のリング。
当然のことながら主役のブロディ&スヌーカやファンクスの姿は無く、何とも寂しいエンディング晴れ舞台となってしまいました。
しかしこの殺風景なリングで、まさかまさかの「馬場さん劇場」第2ステージが幕を開けます。
ヒゲの原軍治リングアナからやおらマイクを強奪した馬場さん。
「ただ今皆さんご覧のようにハンセンがこの会場のリングの中に入りましたので、私も…(聞き取り不能)…ハンセンと決着を付ける事を皆さんにお約束します。」
と、日本プロレス史に残る超々レアなジャイアントマイクアピールをブチ上げました。
シャイな温厚キャラ特有のシンプルで面白味のないマイク芸。
まあ、かつて同じ釜の飯を食ったI選手のような後先考えない激情アピールを馬場さんに期待するのは野暮というものです。
ファンであるなら王道馬場さんがマイクを持ったという事自体に満足すべき。
後の盟友・ラッシャー木村の「こんばんわ」的な爆笑失言(くしくも同年9月の出来事)をしなくてよかったとポジティブに受けとめましょう。

ブロディ&ハンセンはもちろん、馬場さんからファンクス、スヌーカ、東スポ山田さんまでそれぞれの役者がそれぞれの持ち場で万全の仕事をした奇跡の蔵前決戦。
「ホントの事」を全く知らない小学生でつくづくよかった。プロレスならでは(全日ならでは?)の血湧き肉躍る作られたカオス劇場でした。