第18代ダービー馬「トキノミノル」をモデルにした作品。
公開はそのダービーから4年後の昭和30年でした。
10戦10勝うちレコード7回という完全無欠の戦績を残して、ダービー制覇の17日後に命を落としてしまったトキノミノル。
生まれた時から「映画化決定」の星を背負ったスーパーホースだったと言えるでしょう。
なお、オーナーはこの映画の配給会社”大映”社長の永田雅一氏です。
そんな超大物馬主サマが制作する映画とあって、お固いJRA(日本中央競馬会)も全面協賛。
東京競馬場をロケ地として開放した結果、スタンドやらコースやら昭和30年の風景が総天然色で記録されるという嬉しい副産物が生まれました。
歴史考証的に価値がありそうなのはスタートで用いられていたバリヤー式発馬機(バリヤーゲート)。何だか適当なロープで仕切ってフワッとスタートする仕組みです。
当然「ゲートイン」という概念は無し。ペルーサやルーラーシップは生まれた時代を間違えたかもしれません。
しかし広々としたコースや長い直線は今と変わっておらず、あらためて東京競馬場のスケールの大きさがうかがえます。
東京競馬場よりも目を引いたのは、ストーリーの大半を占めた育成牧場の素晴らしすぎるロケーション。
海があって山があって草原をSLが走ってる、我々日本人の郷愁ポイントを総ざらいするかのような絶景がこれでもかと登場しました。
育成パートのロケ地は青森県八戸市の「タイヘイ牧場」。こんないい所なら、馬だけじゃなくチビっ子たちもノビノビと成長するでしょう。なおWeb情報によると競馬の神様・大川慶次郎はこの牧場の次男坊だとの事。何とも意外な代表産駒です。
ストーリーは育成牧場でのトキノミノル(この映画では「タケル」という馬名)と牧場一家の触れ合いが中心。
愛情を持って育成されたタケルは、山火事に巻き込まれるアクシデントも乗り越えダービー出走を目指して東上入厩します。
タケルのウイークポイントは気性難。これは前述の山火事のトラウマであるようです。
そして迎えたデビュー戦(東京競馬場)は、なんとレース前の放馬で発走除外。
その次のレースでもスタンドの大歓声に怯えて逸走という、何とも心許ない滑り出しとなってしまいました。
タケルの気性難に困った陣営は、おしゃれな馬運車を街中や港湾作業現場、鉄道高架下などに横付け。
ガヤガヤの騒音に慣らすことにより、レース本番に物怖じしなくなるよう必死の矯正を試みます。
現代競馬でもラジカセで馬房にパンクロックを流し続けた厩舎があったはず。あの手この手、調教師のアイディアと腕の見せ所です。
不幸なことに直前にもトラウマの「火事」に遭遇してしまったタケルですが、陣営の努力が実を結んで会心のダービー制覇を達成。
これにはオシャレして青森から駆け付けた大女優・若尾文子も生産者席で大喜びです。
入厩からダービー制覇とその後の悲劇までを描いたこの作品ですが、あくまでメインは馬産地青森タイヘイ牧場での育成パート。
明るく元気なチビっ子とそれを厳しくも温かく見守る大人たちが、みんなで一緒に馬を育てていきます。
登場人物はみんな真面目で前向き。トキノミノルの偉大さというより、馬産や馬事に携わる人々の素晴らしさが全体をとおして伝わってきます。
とりあえず競馬場じゃなく牧場に行きたくなる、思いのほか癒し系の競馬ムービーでした。