Translate

2013/09/08

顔役

録画した日〔2013/3/6:日本映画専門チャンネル〕

昭和46年に公開された勝新太郎初めての監督作品。
主演はもちろん監督本人。山崎努、太地喜和子、伴淳三郎、大滝秀治らの分厚い面々が脇を固めます。
制作+脚本+監督+主演とやりたい放題の勝新の役どころは、嗅覚抜群ながら警察組織にはそぐわないアウトロー刑事。
エンディングで悪の親分を生き埋めにするなどその手法に多分の問題はあるものの、「泥を浚う」社会の汚れ役を自らの使命とする正義漢です。
そんな勝新を慕う相棒は、ミスター脇役・前田吟。
社会正義を追い求めるスピリットは同じですが、悪と対峙する方法論はまるで正反対。勝新の無軌道っぷりに戸惑いながらも必死に食らいつこうとする堅物新米刑事です。
2人の目下の案件は、老舗vs新興の抗争勃発をトリガーに始まった暴力団一掃キャンペーン。
それを主導するボス・大滝秀治はルックスどおりの食えないタヌキ野郎。もちろんアウトロー勝新とは対立の構図が敷かれており、保身のためならいつでも切り捨てるスタンスとなります。
タヌキ野郎の命令に沿うのではなく、あくまで「泥浚い」の精神でヒール軍に食い込む勝新。
山崎努ら一筋縄ではいかない連中と同じ目線で向き合って切り崩す、反則すれすれの手法でズブズブと悪の世界を突き進みます。
と、まあキャラ設定やストーリーの骨格は極々シンプルなのですが、問題は新人監督・勝新によるその「見せ方」。
“トゥーマッチ”を嫌う異能の新人は、説明、前振り、お約束の類のシーンを徹底排除。
「これ、何のシーン?」と考えてるうちに次々シーンが転換するので、ポップコーン食いながらお気楽に見てた映画ファンは序盤戦で早々に脱落してしまったのではないでしょうか。
これは太地喜和子(山崎努の彼女)宅に勝新がガサ入れしたシーンの1コマ。
2人の2ショットシーンは少なく、勝新一人称目線のどアップ→ピンボケ→脇見→どアップ…といった感じの映像が繰り返されます。
この仕様は他のシーンでも同様。
映画マニア、アート系の面々から大絶賛されているこの作品ですが、ポップコーン食いながら系の私としては船酔いかポケモンショックかという酩酊状態に苛まれました。
映像手法以外でも必要以上に「リアル」にこだわるのが新人監督・勝新の流儀。
オープニングの賭場シーンは、出演者だけでなくロケ地の提供までもそのスジの方々が全面協力したという超ハードコア路線です。
この他、伴淳三郎が経営するストリップ劇場も踊り子さん含めて皆んな本物だったとか。
そして監督の本物志向が行き着いた先は、対立組織が終戦協定を結ぶ「手打式」の完全再現です。
儀式進行からお供え物の配置までそのスジの方に詳細指導を請うたとの事で、厳粛なセレモニーがリアルに描かれました(そもそも本物の手打式がどんなものかは知りませんが…)。
ちなみにこの手打式を仲介する暗黒大物フィクサーを演じたのはお兄ちゃん・若山富三郎(画像中央)。勝新ファミリー伝統のゴリ押し人事発令です。

舞台となったのは夏の大阪。
ヒールもベビーも出てくる人は皆んな汗だくのギラギラ状態。見た目はクールとかけ離れていますが、怒ったり泣いたり笑ったりが少ない、そっちの意味ではクールな映画なんだと思います。
奇をてらったとかアバンギャルドとかではなく、あくまで昭和46年の勝新太郎にやりたい事をやらせたらこうなった的な大傑作。
脳内の世界観を映像化した勝新もさることながら、それに最後まで付き合ったスタッフ、共演者、お客さんも相当な凄玉ではないでしょうか。
今回はとりあえずWeb情報等で身構え心構えと予備知識を持っていたので「完走」できましたが、何も知らないで見たら何がなんだか分からないうちに終わってしまったでしょう。
まあ、超人・勝新太郎が考えてる事を凡人が一発で理解できるはずはない。
予習復習をやった上でもう一回見てみようと思います。