16年ぶりに制作された26作目の映画版座頭市。
公開は平成元年2月。結果的にこの作品が勝新太郎最後の「座頭市」となりました。
新時代「平成」に降臨した昭和のヒーロー座頭市。
ただ、この映画の製作開始は昭和63年1月。いろいろスッタモンダ(いろいろあり過ぎるので詳細は割愛)があって「昭和」に間に合わなくなっちゃったのが実際のところのようです。
舞台は千葉県銚子市周辺の宿場町。この町は2系統のヒール軍に支配されていました。
座頭市のスタンスは、賭場で大儲けして目を付けられたり、恵まれないちびっ子ハウスに居候したりしながら両軍の抗争に巻き込まれていくというもの。
10年前に終了したTVシリーズの路線をほぼ踏襲しています。
町を牛耳る2大ヒールの一方のボスに抜擢されたのは、なんと座頭市のリアルバカ息子・奥村雄大(今の芸名=鴈龍)。
幕府の悪徳役人・陣内孝則とタッグを組む冷徹な合理主義者というギミックです。
ストーリーのキモにバカ息子...。
トンデモドラマ・警視-Kでもお馴染みの座頭市一家ゴリ押し人事がここでも炸裂した事となります。
奥村雄大と対立するもう一方のヒールはシェケナベイベー・内田裕也。
これまた口あんぐりのサプライズ人事です。(お約束の安岡力也、ジョー山中付き)
16年ぶりの勝負作にバカ息子vs無軌道ロッケンローラーというリスクの塊とも言える構図を描いた監督・座頭市。彼こそ本物の「ロック」ではないでしょうか。
そんな不安いっぱいのメインストリームを補完するのは三木のり平、緒形拳、樋口可南子といった超実力派バイプレーヤー連中。
この他プッツン5・片岡鶴太郎なんかもそれなりのポジションで参戦していたのですが、残念な事に彼らは点と線で言うところの「点」の散らばり。
豪華ゲストを乱立させず座頭市のワントップでズブズブと突き進んでくれた方が、見ている側からすれば分かりやすかったかも知れません。
この映画について各方面で絶賛されているのがラストのブッタ斬り祭り。
奥村雄大vs内田裕也の軍団抗争最終戦に乱入した座頭市は、1人で両ヒール軍を総ナメにして銚子市に平和をもたらしました。
そして、スーパーヒーロー座頭市の生涯における「斬り納め」となったのは、自らも熱狂的勝新太郎シンパである名優・緒形拳。
その役どころは、座頭市の凄玉ムードに惹かれる孤高の用心棒でした。
ヒール軍全滅により本来は斬り合う理由などなくなった2人ですが、緒形拳は侍としての矜持から宣戦布告を仕掛けます。
これを受けた座頭市は容赦なく緒形拳をブッタ斬って瞬殺。「抜いたのぁ、そっちが先だぜ…」とシビれるような名台詞を最後に、幾多の栄光を刻んだ銀幕から去っていきました。
私は「映画版」を見るのはこれが初めて。
1時間でサクッと完結するTVシリーズ=お茶の間向け勧善懲悪時代劇にしか思考回路が対応できないので、勝手の違うこの作品にはちょっと入り込めなかったというのが正直な感想です。
また、入り込めなかった要素の一つは序盤でいきなり飛び出した女親分・樋口可南子との大胆濡れ場(in露天風呂)でした。
通算100回のTVシリーズではババア相手の大ポカ1回を除いて残り99回に渡り純潔(?)を貫き通した座頭市。
映画版ならではのお色気カットなんでしょうが、最強ハードボイルドの変節は残念な限りです。
ただそんな中で嬉しかったのは、TVシリーズの常連ヒール・蟹江敬三が相変わらずのセコセコ男として参戦していた事。
座頭市の寵愛を受けるこのヘタレヒールは、立ちションしてる所をブッタ斬られるという業界屈指の超VIP待遇でその役割を全うしました。
昭和6年生まれの座頭市は、当時還暦を迎えるちょっと前。
凄みのあるその風貌は年齢を重ね更なるグレードアップが施され、それでありながら殺陣で見せる華麗なステップは絶頂期を彷彿とさせる最強のコンディションでした。
凄みのあるその風貌は年齢を重ね更なるグレードアップが施され、それでありながら殺陣で見せる華麗なステップは絶頂期を彷彿とさせる最強のコンディションでした。