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2014/07/20

新日本プロレス闘魂史(#17)

録画した日〔2013/3/31:サムライTV〕

平成2年に行われた4試合。
2月10日の「スーパーファイト IN 闘強導夢」が中心です。
空前の神興行”2.10”を締めるのは猪木&坂口の新日黄金タッグ。
ただし東京ドームを「闘いのトレンディボックス」とぬかしやがる辻アナにかかると、この巨星2人は「赤い絨毯と社長の椅子の権力コンビ」。
たしかに猪木、坂口とも前年それぞれ参議院議員、新日社長へとステップアップした「上がり」のレスラー。テレ朝C調アナ野郎による無礼千万なギミック添加もあながち間違ってはいません。
そんな新日の象徴に刃を向けるのは蝶野&橋本の孫世代タッグ。
ドレッシングルームで世代交代のビッグコント「時は来た!」をブチ上げた屈強な若者2人は、ドームでの権力者狩りというビッグチャンスに臨戦態勢ギラギラの戦闘モードです。
こうして迎えた「エキシビションマッチ」は、時代の流れをリアルにさらけ出すいかにも新日らしい過激な展開に。
1年近くのブランクによりベストコンディションとは程遠い黄金タッグは、上昇志向で暴発寸前の蝶野&橋本に食らい付くのがやっとの状態となってしまいます。
容赦ない若者2人にボコボコにされつつ、プロレス的儀礼で何とか勝ちを拾った黄金タッグ。
超満員63,900人が集結した歴史的ドーム興行は、静かなる荒鷲・坂口征二の超レアな絶叫マイクを火ブタにここから日本マット史上最強のクライマックスへ突入します。
坂口
「またタッグ組みましょう!、またタッグ組みましょう!!」(猪木にバトンタッチ)
猪木
「えぇ、どうも。本当にありがとうございます」
「プロレスがまた再び必ず、大ブームが起きまして、私が長年夢であった本当の…、プロレスを通じて、スポーツを通じて世界平和に、必ず実現します!」
「私は、橋本と蝶野、もう今日は立ってるのがやっとでした。本当に強くなりました」
「でも、俺達はリングしか、しっかり、闘い抜きます!、ありがとうございました、また、よろしくお願いします!!」
スポーツ平和党としての政治的アピールと三銃士世代のプッシュを絶妙に織り交ぜる猪木。
マイクをリングアナ・田中ケロ氏に戻したところ、ケロ氏は「それではダァーを…」とこれまた絶妙なワンツーリターンを敢行します。
猪木
「それでは、約束どおり、私の勝った時しかやらないポーズ…、最近は力が弱くなりましたが、皆さんの心を一つに、一発気持ちイイやつをやらせて下さい」
「ご唱和願います、1・2・3でダァーです...」(ニコニコの坂口。ドーム内は爆笑から大歓声へ)
こうして24年前の東京ドームに人類史上初めて投下された「1・2・3ダァー」。
今は亡き春一番氏など、その後あらゆるシチュエーションにおける”締め”のテンプレート芸としてすべての日本人に継承されています。

ちなみに2.10の時点で現役引退-社長業専念の既定路線を敷いていた坂口征二。その引退試合はドームから1ヶ月後の3.15地元・久留米大会で行われました。
対戦相手はスコットホール(後のレイザーラモン)&CMカーシュナー(後のレザーフェイス)という地味メン。
フィニッシュも木村健悟の稲妻レッグラリアートに譲るという実に慎ましい荒鷲のラストマッチ。
しかしこの清貧の思想「坂口イズム」があったからこそ、新日は90年代の大ブレイクを迎えられたのでしょう。

2.10最大のトピックは、鶴田、天龍ら全日プロ勢禁断の緊急参戦。猪木の政界進出後に確立された馬場-坂口ラインの恩恵です。
全日トップ外人・スタンハンセンは8年ぶりの新日マット登場。皇帝戦士・ビッグバンベイダーが保持するIWGPヘビーに挑戦しました。
2大メジャーのトップがド迫力でぶつかる平成版「バトル・オブ・スーパーヘビーウェイト」。
特に凄かったのは序盤で右目を破壊されたベイダー。不沈艦に対し狂気に近い猛攻を仕掛け続けます。
もちろんこれを受け切って且つブン殴り返し続けたハンセンも至高。
伝説てんこ盛りの2.10ですが「ベストバウト」の問いには63,900人が全て同じ回答をするでしょう。

ラリーズビスコを撃破し、世界のメジャー・AWAヘビー級王座を奪取した獄門鬼・マサ斉藤。
前科一犯の47歳が快挙を達成したこの第6試合の後には、日本プロレス会場で初めて発生した「ウェーブ」がドームをグルングルンと回ることになります。
マサさんには失礼ですが、2.10ドームにおいてはこの感動の戴冠劇も前半のツカみ的ポジション。
ウェーブ発生を経て展開された後半戦、全日軍団登場を皮切りとする怒涛のラインナップにドームはもちろん全国のプロレスファンは歓喜の雄叫びを上げました。

当時高校生だった私も歓喜の雄叫びの一員。
この巨大イベントをきっかけに何となく冷めていたプロレス熱が再燃、2ヶ月後の4.13日米レスリングサミット参戦で完全復活を果たしました。

当初はムタ凱旋のNWA戦など「普通に豪華な大会」になる予定だった2.10。
諸々のトラブルで再構築した結果、2大メジャーにとって90年代黄金期の起点となる歴史的興行へと昇華しました。
もちろんこの大逆転の功労者はビッグサカ・坂口征二。
猪木イズムをやんわりながらも敢然と否定し、百戦錬磨の馬場さんと寝技で伍した穏健路線にあらためて敬意を表したい気持ちです。