昭和57年に公開されたTV版”巨人の星”のダイジェスト映画。
前年のジャイアンツ日本一にインスパイアされた作品だとのことです。
8年ぶりの日本一に貢献したスーパールーキー・原辰徳は祝勝会でお得意の顔芸を披露。堂々たるスクリーンデビューを果たしました。
ONの次代を担う若大将はなんとお父さんの原貢氏とも共演する別格扱い。パーティを中座して赤電話で優勝報告です。
この貢&辰徳の親子鷹エピソードは、一徹&飛雄馬の「本編」へ繋がるイントロ的なパートでもありました。
昭和56年の日本一の原動力となったのはV9を知らないヤングジャイアンツたち。
この便乗映画ではそんな原辰徳以外のフレッシュな主力選手もアニメ化されています。
ちなみに彼らの「出演」はオープニングとエンディングの別枠わずか数分。飛雄馬や花形満との夢の対決シーンはありませんでした。
野手部門でアニメ化選抜されたのは原を筆頭にダンディ篠塚、青いイナズマ松本、ゼッコーチョー中畑清の4人。
バッターボックスにおける原と中畑の絵面の違いに悪意を感じますが、これはそれから30年以上経った2014年現在における2人のコントラストを予見したものと解釈しましょう。
沢村賞・西本、最多勝・江川、セーブ王・角盈男、イケメン担当・定岡という充実のラインナップとなった投手陣選抜。
アゴがひん曲がって描かれた角盈男もお気の毒ですが、選抜漏れとなった地味な加藤初(この年12勝の大活躍)の事も思い出してあげてほしいもんです。
ミスター長嶋解任、王選手引退という「事変」を受けて発足した第一次藤田トロイカ政権。
チームを取り巻く不穏な空気の中、V9以来の日本一という文句なしの一発回答を叩き出した藤田元司監督の男気には感嘆するしかありません。
なお「本編」で藤田監督はピッチングコーチとして飛雄馬のスカウト役を演じています。
肝心の本編は伝説エピソード詰め込み状態。正味2時間弱に飛雄馬父子の濃厚大河ドラマが収まるわけがありません。
幼少期の重要アングルである極悪少年野球団・ブラックシャドーとの因縁抗争(大リーグボール養成ギブス着用のハンデ戦形式)も実にアッサリと消化されます。
酒飲んで飛雄馬にラフファイトを仕掛けるお父さん・一徹とそれを必死に制止する母親がわりのお姉さん・明子。
もちろん一徹の一連の暴走は飛雄馬を思うが故の不器用な愛情表現。ザ・ファンクスを思わせる父娘の定番ムーブは日本人の心の風景でもあります。
そんなワーキングクラスヒーロー・一徹の献身で超ブルジョア校・青雲高校を受験する事となった飛雄馬。
面接試験の際にブチ上げたリスペクト「父ちゃんは日本一のXXXX」発言は、その意に反し後に放送禁止の社会問題に発展します(この劇場版ではカット無しで放送)。
盟友・伴宙太との出会いはこの受験の日。
伴は当時全国柔道王。飛雄馬の入学をPTA会長の父へゴリ押しし、自らも野球部へ移籍して甲子園出場というトンパチ系の超スポーツエリートです。
そんな2人が臨んだ甲子園大会は花形満の紅洋高校に決勝で敗退。伴宙太の異種目高校2冠達成は成りませんでした。
なお飛雄馬は、熊本農林高校との準決勝で主砲・左門豊作の貧乏エピソードに動揺して乱調になるなどメンタル面での課題を露呈しています。
甲子園大会後のジャイアンツ入団試験では嫌味なオリンピックボーイ・速水譲次が登場。
しかし内容てんこ盛りのダイジェスト版にオマケキャラの出る幕はなし。100m10秒5の俊足や得意のビッグマウスは完全にカットされていました。
ちなみに魔球のお披露目は川崎球場の大洋ホエールズ戦(バッターはもちろん左門)。試合後の即席記者会見で「大リーグボール1号。どや、雄大な名前やろ!」とカネヤン・金田正一が命名しました。
すっかりベビーターンした花形は、幼少期からのライバルの覚醒を涙を流して讃えます。
そしてこのシーンをもって、ジャイアンツ日本一の勢いだけで制作されたクソ映画は中途半端にエンディングと相成りました。
本編の尻切れダイジェストはともかく、劇中音楽をごっそり入れ替えるという無茶もカマしています。
世界観を象徴する名曲「行け行け飛雄馬」は重いコンダーラ感ゼロのポップな曲調に変貌。BGMもなんだか拍子抜けの軽いものでした。
このヤッツケぶりをみたら”あの”原作者はブチ切れてしまうのでは…。
しかしそんな心配をよそに、オープニングでは「総指揮 梶原一騎」の文字が燦然と輝いていました。
人間兇器ご本人プロデュースだったら文句は言いっこ無し。
その意志を受け継いで坂本や内海をアニメ化、オズマやオーロラ3人娘が登場するパート2を制作してもらいたいものです。