昭和60年7月に放送された美空ひばり主演のスペシャル刑事ドラマ。
東京「南大井警察署」に流れ着いた敏腕デカのひばりが八面六臂の大活躍を繰り広げます。
管轄の大井競馬場で地元ヤクザをしょっ引くひばり。
さっそくのお手柄と思いきや、この日ひばりは着任前の非番日。レースにエキサイトし過ぎて前にいた鼻の穴のデカいお客さん(地元ヤクザではない)に思わず送り襟絞めをカマしてしまったというワケです…。
一般人暴行の不祥事をとりあえず平謝りでもみ消したひばり。鳴り物入りの敏腕デカですが、こんな風についつい熱くなってしまう性格の持ち主のようです。
それはともかくこの鼻の穴のデカいお客さん、いつかどこかで見たような…。
この鼻の穴はもちろん“サブちゃん”こと北島三郎。役名は特になし、芸能渡世のお約束である「友情出演」のポジショニングとなります。なおこのレースでサブちゃんは見事馬券的中(ひばりはハズレ)。
今年のスプリングステークスを「キタサンブラック」で制した馬主サブちゃん。相馬眼は30年前から抜群だったようです。
ひばりの役職は巡査部長。警視総監賞7回でエリザベス女王のSPも務めたというキャリアを誇る反面、始末書提出13回というハチャメチャ要素も持ち合わせています。
お年は38歳で独身。当時のひばりのリアルなお年は「48」。女王にしか許されない強権発動があったのでしょう。
相棒を務めるのは超良血(父・阪妻、兄・田村高廣&正和)の田村亮。
チャキチャキのひばり部長に比べてヒラ巡査の田村はどうも頼りない風情。なんだか先が思いやられるでこぼこタッグです。
赴任早々に勃発した男児誘拐事件。闘志溢れるひばりはチャカをチラつかせて身代金受渡し現場への潜入を志願しました。
なお、運送屋のユニフォーム姿なのは犯人に気付かれずに被害者家族と接触するためのカモフラージュ。こうしたコスプレがこのドラマの肝となります。
受渡し現場では確保寸前に犯人がバイクで逃走。
ここから田村亮が超絶ドライビングテクニックを披露してカーチェイス捕物帳へ展開。始末書13回のひばりは何の躊躇もなくチャカを抜いて犯人撃墜を図ります。
南大井署の日産スタンザは都合よくサンルーフ付き。ルーフを開けじっくり狙いを定めたひばりは見事犯人のバイクを撃ち落としました。
新天地で幸先のいい勝ち戦。歓喜のひばりは飛び跳ねて勝利の咆哮をブチ上げます。
しかしこの喜び過ぎが命取りに…。
ひばりの歓喜のステップが田村亮のドライビングを妨害し、なんと日産スタンザは2人を乗せたまま土手から河川敷へと真っ逆さまに転がり落ちてしまいました。
どう考えても生存絶望の大クラッシュ。
しかし我らがひばりは「不死鳥」。絆創膏1個のかすり傷でケロリと生還です。
ちなみにバイクで逃走した男はただの雇われ男であると判明。ひばりと田村亮(こちらも絆創膏1個で生還)は真犯人探しに乗り出します。
ひばりの得意技はコスプレ潜入捜査。これで幾多の難事件を解決してきたとの事です。
最初のターゲットは踊りの師匠・長谷川哲夫。艶やかな和服美女がまさか敏腕デカだなんて全く気付いていません。
ひばりは「小唄振りぐらいなら…」とフェイクを張りつつドヤ顔でおしとやかな舞を披露しました。
チャキチャキ姐さんから180度のギミックチェンジ。これには田村亮も驚愕の顔芸を抑えられません。
「人間魚雷」テリーゴディばりのカーリーヘアで突入したのはガラの悪い雀荘。ひばりは「雀プロ」を名乗りアヤしい輩・長塚京三に接近します。
なお捜査線上にいる輩はこの長塚と前出の長谷川哲夫を含め都合4人。いずれも被害者=清水章吾経営のサラ金(現・消費者金融)に対し借金やら揉め事を抱えています。
この雀荘での捜査はお約束の大乱闘へ発展。
「柔」でのレコ大受賞など腕におぼえありのひばりですが、長塚京三との圧倒的体格差はいかんともしがたく防戦一方。
すわKOかと思われたところ、実は腕におぼえありだった田村亮に間一髪で救出されました。
続く第3試合。ここでいよいよ昭和の茶の間おまちかねの「歌手」コスプレが披露されます。
ひばりは流しのシンガーを装ってクラブ“マンハッタン”にアポなし乱入。作詞ひばり/作曲イルカの「夢ひとり」を貫禄たっぷりに唄い上げました。
一介の巡査部長が放った戦後日本最高水準の歌声。相棒・田村亮は「どこで習ったんだ?」とまたまた顔芸全開で感嘆します。
女王まさかのクラブギグ。居合わせたお客さんは幸せものです。
ちなみにクラブ“マンハッタン”におけるターゲットはあの高田純次。
ポマードべっちょりのオールバックはいかがわしさ満点。同年の同脚本家(畑嶺明)による名作ドラマ「毎度おさわがせします」の間男ギミックがベースになっているのでしょうか。
最後の潜入先はなんと「わかば」とかいうデートクラブ。
お店のシステムは不明ですが女性1人での入店は明らかに不自然。ここでひばり(48)はデート嬢コスプレという放送コードスレスレの強攻策に打って出ました。
狙いは客の三好鉄生。「涙をふいて」でおなじみのこの一発屋はまんまとひばりのフェロモンに引っ掛かります。しかし、なにかこう拭えないモヤモヤ感…。
女王への不敬を承知で言えば、ここは「嬢」ではなくお得意の任侠男装コスプレで「客」として潜入するべきではなかったでしょうか…。
賢明な視聴者を置き去りにエロモードで突っ走る三好鉄生は、なんとひばりを自宅マンションへお持ち帰り。パンツ一丁で襲撃体制です。
この女王芸能生活最大の窮地を救ったのはまたしても田村亮。ベアナックルと急所蹴りで三好鉄生をブチのめしました。
ひばりのコスプレ、田村亮のストリートファイトと、それぞれお互いの意外な一面を知った2人はやがてなんだかイイ感じに。
ひばりはまだなんとなくという段階ですが、相棒の田村亮はほぼマジの入れ込み状態となってきました。
肝心の捜査進捗については、長谷川哲夫と高田純次が実は裏でツルんでて一番アヤしいというところまで判明。
結果、長塚京三と三好鉄生は残念ながら今回はチョイ役となります。
一気に詰めに入ったひばりと田村亮は、まず脅迫電話真っ最中の長谷川哲夫を確保。
続いて監禁現場となっていた“マンハッタン”へ突入し高田純次を確保。そしてひばり的に最重要だった男の子の無事奪還を果たしました。
ひばりの大奮闘により事件は一件落着。
そうなると気になってくるのがひばりと田村亮の関係。部長とヒラによるでこぼこ熱愛のステップアップです。
非番のある日、ひばりの下宿先をアポなし訪問した田村亮。ひばりを「デート」ではなく「散歩」に誘いました。
ひばりはこれをあっさりOK。この急展開に世話人の妹・木内みどり夫妻もびっくりです。
競馬場=鉄火場だった1985年時点(トゥインクルレース誕生は翌1986年)ではありえないこのチョイス。職場同様、主導権はひばりにあるようです。
だったらせめて2人で…と切り替えた田村亮の願いは、オープニングに続いてまたもや登場の友情出演・サブちゃんによって敢えなく破綻。
それにしても女王と帝王が揃ってギャンブル依存症とは日本歌謡界の行く末が心配になります。
レースに熱中するひばり&サブちゃんと、おいてけぼりの田村亮。ドラマはこんなトホホな感じでエンディング。38歳(実際は48歳)の敏腕巡査部長・ひばりの春はまだまだ遠そうな気配です。
それらも豊富でなかなか楽しかったのですが、女王は歌ってるのが一番という事に変わりはないでしょう。