晩年ともいえる昭和60年と平成元年から1試合ずつ。
いずれも会場は両国国技館です。
「猪木の目にバーニングスピリットを見た」と日本プロレス史上屈指の名言を残したブルーザーブロディ。
その初遭遇から1か月後のS60.4.18、ベストウェイト130.5kgに仕上げてきた超獣はツェッペリン原曲Verの「移民の歌-Immigrant Song」に乗って初対決の舞台・両国国技館に見参しました。
一方、グッドシェイプのブロディとは正反対にぐるぐる巻の包帯姿が痛々しい猪木。コミッションドクターの診断によると左ヒジ筋膜炎という重傷だそうです。
もちろん犯人は目の前のブロディ。
試合前の支度部屋に乱入し、チェーンで猪木を滅多打ちにしていました。
この無法襲撃は「国技館チェーン持ち込み禁止令」にキレたガチ犯行という説も。
まあ、そもそも“禁止令”自体アヤしいんですが、その一方で「この男ならやりかねない」と思わせてしまうのが唯我独尊のインテリ超獣・ブロディ。
この手のネタの権化である猪木ともども、虚々実々の美しきプロレスファンタジーです。
TVで見ている側からするとかなり興醒めだった試合前のハプニング。
しかし、国技館内にこのネタは伝わっていなかったのか、超満員11,066人のファンは両雄の一挙手一投足に大爆発。初顔合わせの天才2人は一進一退充実のロングマッチを創り上げます。
私としては「噛み合わなかった」という記憶の猪木vsブロディですが、この4.18両国決戦に関して言えばそれは記憶違いだったようです。
まだまだお互い探り合いの段階だから良かったのか?
両リン決着でも十分納得、次へつながる熱いファーストコンタクトでした。
東京ドーム進出を2ヶ月後に控えた平成元年2月の両国。この日は旧ソ連「レッドブル軍団」のお披露目大会でもありました。
晩年を象徴する紫紺のガウンに身を包んだ猪木。
レッドブル招聘という大仕事を終えたからなのか、かなりお疲れの模様です。
対戦相手は革命やら世代闘争やらが何となく落ち着いた感のある当時37歳の長州力。
前年7月の札幌で猪木から初フォール勝ち、ライバル藤波は怪我で小休止と、もはや大旗を掲げずとも天下が転がり込んでくる勝ち戦の様相を呈しています。
無慈悲なリキラリアット6連発でふたたび猪木をマットに沈めた長州。
本来なら両国爆発クラスの大事件であるにもかかわらず、お客さんはどこか淡々とした感じでした。
これは2度目の出来事だったからというよりも、すっかり細くなった猪木の体を見て最初から覚悟をしていた結末だったからではないでしょうか。
そして飛び込んできた、藤井アナによる「猪木が泣いてます!」の渾身レポート。
両脇を抱えられた敗者・猪木は涙で顔がグシャグシャ。
これぞまさに落日の闘魂。言葉無くして執り行われた超過激な世代交代の儀式です。
ブロディ戦の時が42歳、長州戦では45歳。
21世紀の観点ではまだまだこれからという年齢ですが、人の100倍以上の密度と速度で突っ走ってきた燃える闘魂としてはもはやクタクタボロボロの状態だったのでしょう。
とは言えこの後もベイダー戦やら馳浩戦やら超絶マッチを世に残していく猪木。
ひとたびリングに上がれば決して誰も裏切らない、信頼度100%のスーパースターです(あくまでリングの上では…)。