録画した日〔2012/8/29:日本映画専門チャンネル〕
昭和49年に公開された芸術祭参加作品。
勝新太郎と高倉健、超ビッグスターの最初で最後の共演が実現しました。
日本が軍国主義っぽくなってきた昭和12年の夏が舞台(場所はおそらく山陰地方)。
同じ日に刑務所から出所した2人のヤクザな男が、いがみ合いスレ違いながらも絆を深めていくというストーリーです。
白の夏物スーツ上下にカンカン帽を身に纏った勝新太郎は、ガキ大将がそのまんま大人になった様なちょっとウザめの天衣無縫キャラ。
目下の夢は、どっかの海に沈んでいるロシア・バルチック艦隊のお宝財宝を見つけ出すことです。
そんなC調男・勝新太郎とは何もかも正反対の高倉健。全ての日本人が抱く「健さん」像を忠実に守った寡黙な着流し男です。
元潜水夫って事で勝新太郎からバルチックお宝探しの誘いを受けますが、それよりも兄貴分の仇討ちが目下の懸案事項。激烈な執念でヒール連中を追い込むヒリヒリの任侠道を貫きます。
性格も夢も生きる道も全く違う男2人を結びつけるヒロインは梶芽衣子。
かと言って、両雄が恋のさや当てをするという事ではなく、2人それぞれの道中を行ったり来たりあっちこっち共にする少しおバカな薄幸の娘さんです。
女郎屋から脱走(勝新太郎&高倉健がアシスト)した梶芽衣子の願望は「海が見たい」。この点で勝新太郎と利害が一致し、2人はボロい舟で壮大なバルチック艦隊お宝探しを決行します。
そしてこの2人のアホバカパワーに吸い寄せられるかの如く、孤独な仇討ち行脚を続けていた高倉健もお宝探しに合流。
アテはないけど夢がある、綺麗な海辺で3人のフリーダムな暮らしがスタートしました。
3人の頑張りも虚しくバルチック艦隊お宝はまるで見つからず。この案件は、実生活に違わずスーパースター勝新太郎の大ボラだったものと思われます。
しかし梶芽衣子は「お宝なんかなくっても、こんな毎日が続いたらいい」、高倉健は「俺はここへ来てホントに良かったと思ってる」とライフスタイルには大満足。これぞ業界人を魅了する勝新マジックといったところでしょうか。
エンタメ業界最強の2人による空前のドリームタッグ。
団体の枠(勝新=東宝、健さん=東映)を超えたアプローチを掛けたのは、ワンパターンになった東映任侠モノからの脱却を期した高倉健だったそうです。
関連書籍によると、両雄のスケジュールはすれ違いっぱなしで必然的に2ショットシーンは少なめになってしまいました。
苦肉の策としてヒロイン梶芽衣子がフル回転。また両雄不在の「絵」を埋めるために海、山、田んぼと美しい風景が満載となる副産物が産まれています。
全体としては高倉健を光らせるために勝新太郎が一歩引いたような印象。
勝プロ総帥としては、芸人的に誠意を尽くし客人である超大物・健さんを饗すスタンスだったのではないでしょうか。
ちなみに一番オイシかったのは、そんな2大巨星の間を行き交いほぼ出突っ張りとなった女囚さそり・梶芽衣子です。
昭和6年生まれの同い年である勝新太郎と高倉健。これが唯一の共演作であり、この後2人がエンタメ業界で同じ舞台に立つ事はありませんでした。
超大型の一枚看板同士「たった1回」で終わらせるのがお互いのためだったのでしょう。
しかしこの映画のギミック同様、正反対の道を歩みながらも2人の芸人魂はどこか心の奥底で繋がっていたのだと思いたいです。