昭和39年2月に公開されたミスター長嶋茂雄主演の映画。
フランキー堺が共演で主題歌は坂本九。ビッグワン王貞治を始めとする現役巨人軍戦士や、伴淳三郎、淡島千景、三木のり平等々大物ムービースターが入り乱れた超豪華ドキュメンタリーです。
内容は「昭和38年」のシーズンを三冠王狙いのミスター中心に追い掛けたもの。
その前の年(昭和37年)に4位に甘んじたジャイアンツが、西鉄ライオンズ相手に日本一へ返り咲くまでの道のりが描かれます。
主役はもちろんこの人、と言うよりこの人がいたから映画が作られた不滅の金看板・ミスター長嶋さん。
ちなみに昭和38年27歳のミスターの成績は以下のとおりでした。
- 打率:.341(首位打者 最多安打161)
- 打点:112(打点王)
- ホームラン:37(王さんに3本足りない2位)
- OPS:1.094
- セリーグMVP(もちろんベストナイン&ゴールデングラブも獲得)
- 日本シリーズMVP
打撃成績だけでなく、ミスターの演技力も驚きの一語。
笑ったり泣いたり悩んだり、全く臆すること無くお馴染みの甲高い声でカットをこなしていきます。
スポーツ選手にありがちな棒読み硬直スタイルは一切なし。
スポーツを超越した日本エンターテイメント界の頂点に君臨するスーパースターの面目躍如と言ったところでしょうか。
そしてミスターのナチュラル演技に触発され、栄光の巨人軍戦士&ドン川上監督もノビノビとスクリーンを駆け回ります。
<ビッグワン・王さん>
ミスターに並ぶプロ野球界の巨星は、もちろんこの年のホームラン王。ミスターの三冠王を阻止してしまいました。しかし「ワンちゃん」「チョーさん」=1+3の魅力は無限大。レノン&マッカートニーを超える史上最強タッグです。
なおワンちゃんは大人の事情で「リポビタンD」のステマを担当。選手サロンでの一気飲みシーンが随所に織り込まれていました。
<ドン・川上監督>
ムキたまごのようなツルツルテカテカフェイスの打撃の神様。後のV9指揮官は、二冠王のミスターに尾頭つき鯛を送ったり、ろう学校の児童を監督室に招いたりビッグボスとしての猛アピールも欠かしません。
<ガンちゃん・藤田元司>
背番号「18」のコーチ兼任エースは、選手サロンでツイストを踊ったりするムードメーカー。ミスターが甲子園でケガをした際には、東京の名医をパトカーで先導させて来阪させるという、超弩級の仲間思いスピリットを披露します。
この他、元祖管理野球の広岡さん、ポーカー大好き柴田さんなど黄金軍団が次々と登場。
みんなの演技が自然なのは、演出の力ではなくミスターを中心とした常勝軍団のポジティブで明るいムードの賜物ではないでしょうか。
この映画のポイントは実録と芝居が2:8ぐらいでシンクロしているところ。
一歩間違えばプロレススーパースター列伝的な大ボラてんこ盛り超誇大妄想絵巻になり得る手法ですが、フランキー堺ほかの役者グループはホラを交えつつもみんなで真面目に「史実」を再現していました。
公開された昭和39年は東京でオリンピックがあった年。日本中がイケイケモードだった大らかな時代です。
巨人が負けるとオヤジ(伴淳三郎)の機嫌が悪くなる典型的な昭和の茶の間は、当時まだ生まれていなかった私にとっても何だか懐かしい風景です。
そして「大らか」という言葉を遥かに突き抜けているのが我らのヒーロー長嶋さん。
熱狂的な大ファンのチビっ子に自宅住所(世田谷区上北沢3丁目337番地)を暗唱されたり、日ごと集まるクソガキに自宅の壁に落書きされたりしても「オイオイ君たち何してるんだ♪」と満面のミスタースマイルでスルーしちゃいます。
スターがスターとして君臨し、庶民がそれを絶対的にリスペクトしていた古き良き時代の超豪華映画。
私はミスターや王さんが登場するだけでワクワクニヤニヤ。これは昭和39年の庶民と同じ感覚でしょうか。
ネタ満載のトンデモ野球映画だと思ったら大間違い。
かと言ってただの娯楽映画でもない、あの頃でなければ成立しなかったであろう予想を超えたハイクオリティの濃厚スポーツエンターテイメントでした。