政治家や財界人、作家など昭和の重鎮達を掘り下げる番組。
今回は劇画界の超巨星・梶原一騎が特集されました。
梶原邸玄関に掲げられたド迫力のご尊顔。奥様・篤子さんの「ドロボー除け」発言もあながちネタとは言い切れません。
並立するタイガー像は昭和57年元旦の後楽園決戦で出現したものか?
だとすれば昭和プロレスファンとしては実に感慨深い創造主への帰還です。
次々と明かされる巨星のエピソード。
それらは概ね自伝/評伝で把握できる範疇ではありましたが、お宅潜入と奥様ブッキングの効果で説得力は充分。
この番組に関して大ボラてんこ盛り手法は用いられなかったようです。
リアルが原作を追い越しちゃったタイガーマスク。
そんな文字どおりの漫画みたいな奇跡はこれから先二度と起こらないでしょう。
「プロレススーパースター列伝」の原田久仁信氏も堂々の参戦。
「血のしたたるステーキ」「涙のしょっぱい味付け」「アントニオ猪木(談)」「女の子のXXを脱がすみたいでオモチロ~イ」といった名フレーズ続出の昭和プロレス大ボラ経典。
「…オモチロ~イ」に関しては氏のオリジナルではないかと勘繰ってしまうキュートな風貌です。
未完の遺作「男の星座」でもタッグを組んでいた原田氏。
“最後の原稿に血がついていた”との激烈エピソードはきっと大ボラ。これぞ私達が愛してやまない梶原イズムの真骨頂です。
ただし、世間一般における梶原イズムは血のしたたるステーキではなく「飛雄馬」と「ジョー」。
巨星とがっちりロックアップした川崎のぼる、ちばてつや両氏も証言者として登場しました。
ちば氏のオープニング改変事件など、当時の苦労話の一つ一つはすべて業界の伝説へと昇華しています。
残念なのは昭和のヒーロー「飛雄馬」「ジョー」はいずれも現代平成のモラルから逸脱してしまっているという事。
特に「ジョー」は設定自体がほぼ放送禁止、いわゆる地上波でのアニメ再放送は無理でしょう。
未来を担う平成のちびっ子達に極太の“イズム”が継承されてゆくのか不安でなりません。
もちろん「巨人の星」「あしたのジョー」の他にも前出の「タイガーマスク」や「柔道一直線」「赤き血のイレブン」など名作が無限にある梶原作品。
しかしそれらを差し置いてグロ系の「カラテ地獄変」を画面のド真ん中に並べた番組制作サイド。
「人間兇器」は入手できなかったか…。いずれにせよ梶原作品に対する熱烈な拘りがうかがえます。
格闘技界のフィクサーとしても超凄玉だった梶原一騎。
没年は50歳だった昭和62年。平成26年の今もご存命だったら77歳です。
「たられば」の話としてK1やPRIDEとは喧嘩したのか仲良くやったのか、離合集散喧しいプロレス界にはどんな睨みを効かせたのか…。
何やらドス黒い幻想が次々と沸き上がってきます。
私は、再放送で見たタイガーマスクや巨人の星に始まり30年越しで梶原ワールドをほぼコンプリート。
面白いマンガという域を遥かに通り越し、人格形成や思考回路にまでその影響が及んでいると自覚しています。
こんな男はもう出てこない、というか出てきたらいろいろたいへんな不世出の傑物です。